自分を題材として、UXを深く理解する

User Experience(UX)とは何か。この概念を理解するのはなかなか難しい。定義を説明しても、それで概念をしっかりと理解するのは容易ではないだろう。

UXを理解する上で、有効な方法を以下に示す。

  1. 自分が行なった、ある一連の行動について、良かったか、悪かったかを判定する。
  2. その行動を、複数のサブ行動に分解する。
  3. 各サブ行動について、何がそこにあったかを記録する。
  4. 各サブ行動において、自分が見たもの、聞いたものを記録する。
  5. 各サブ行動において、自分が何をやったか(行動)を記録する。
  6. 各サブ行動において、自分が感じたことを記録する。ポジティブな感じ、ネガティブな感じのそれぞれがあると良い。
  7. 各サブ行動において、なぜ自分がそのように行動したか、を考える。
  8. 各サブ行動において、自分がなぜそのように感じたか、を考える。
  9. 各サブ行動において、そこにあったものをよく分析して、自分が見た、聞いた、やった、感じたことが、なぜ生じたか(発生理由)を考える。★ここが非常に重要。

上記の一連の内容を、後から思い出すことは難しい。そこで、自分がこれから始める行動について、今からUXを分析するぞ、と思ったときに、上記のステップに取り組むと良い。

これは、実はCustomer Journey Map(CJM)を描くことと同一である。しかしながら、CJMを描く場合、それを描くだけで満足してしまい、何の目的で描いたのかを忘れがちである。

プロのデザイナーが描くような、綺麗なCJMを描くことが重要なのではない。

一番大事なことは、自分の行動や感情が生じた要因を明らかにして、良い感情であれば、その発生理由を他の場面で活用する、あるいは悪い感情であれば、同じ感情が他の場面で発生しないように、発生理由を用いないようにすることである。

必ずしも、CJMのように綺麗に整理されている必要はない。分析的に世界を観察して、自分の行動や感情を内省、言語化することが重要なのである。

この訓練を積み重ねることで、だんだん、優れたUXを実現するための仕組みを理解できるようになってくる。この作業が、優れたUXを実現するためのデザイン、つまりUXデザインに繋がっていくのである。

 

これからの協働に必要な能力を知る: 「ファシリテーター型リーダーの時代」を読む

多様なメンバーからなるチームの協働が重要なUXデザインにおいて、ファシリテーションの重要性はよく語られています。しかしながら、私の場合、ファシリテーションのトレーニングをちゃんと学ぶ機会は少なく、またその重要性を仕事の中で聞くことはほとんどありませんでした。では、そもそもファシリテーションとは何で、何をすればよいのか、またなぜ必要なのでしょうか。たまたま本屋で手に取った本書は、その答えを示しています。

フラン・リース:”ファシリテーター型リーダーの時代”, プレジデント社, 2002.
原著: Fran Rees: “The Facilitator Excellence Handbook”, Pfeiffer, 1998.

本書は、原書”The Facilitator Excellence Handbook”が、ファシリテーターのレベルを、会議のファシリテーション、チーム活動のファシリテーション、組織全体のファシリテーションの3段階に分けて解説したもののうち、会議のファシリテーションを翻訳したものです。

リースは、ファシリテーターを「メンバーを促しながら、グループを導き、グループの作業を容易にする人のこと」と定義しています。グループで仕事をすることはグループメンバーの人数の増加に従って難しくなり、そこで効果を得るために必要なのがファシリテーションであると述べています。

そして、グループにおける活動の生産性を向上させるためには、誰もがファシリテーション・スキルを持つ必要が有り、ファシリテーションがうまくいくことで、グループの活動がうまくいくようになる、つまりグループに所属するメンバーそれぞれが適切に行動するようになると論じています。

組織に所属するメンバーが、このようなスキルを持つべきであるということについて、日常業務で議論されることはほとんどありません。それだけに、このような視点を各メンバーおよびそのマネージャーが持つことは、必要性が高いと考えます。具体的なファシリテーション技術だけでなく、その意義を明確に述べていることが、本書の優れている点です。

本書の構成は以下の通りとなっています。ファシリテーションに興味のある方はご一読ください。

  • 第1部: ファシリテーションとは何か
  • 第2部: ファシリテーションの基本スキル
    • 質問・発言・要約の技法
    • 話を聴く・表情・動作の技法
    • 記録を取る技法
    • グループを読みとる技法
    • コンセンサスを構築する技法
  • 第3部: ファシリテーターの手法とツール
  • 第4部: 効果的なファシリテーションの設計
  • 第5部: 会議の生産性を高める

企業でUX戦略が成熟してくると、企業の活動そのものとなる

企業において優れたUXを提供するためには、適切な目標設定と目標到達のためのアクションを決める必要があります。これは、UX戦略を定めることに他なりません。

Renato Feijoはブログ「Planning Your UX Strategy」で、企業におけるUX戦略の必要性について論じています。「オンラインショッピングの購買成功率を30%から70%に引き上げる」「Webサイトで新メンバが会員になりやすいようにデザインする」などは、デザイン目標であり、UX戦略と混同すべきでないと論じ、UXとは顧客と企業とのあらゆる接点で形成されてくるものであるから、UX戦略は企業のあらゆる部門が連携した取り組みである必要があると述べています。

戦略立案は一般的に、現状分析と目指すべき状態を明確にして、その状態に到達するには何をすべきかとその優先度付けをします。そして作った戦略を実際にやり遂げるのです。そのために、競合分析に加えて自組織の分析をおこなう必要があります。UX戦略も同じです。そして現状分析と目標設定のために、UX成熟度モデルが用いられるのです。

Feijoのモデルでは、レベル1(認識されていない)からレベル6(企業に埋め込まれている)までの6段階が示されています。企業がUXに最高度に成熟すると、UXは企業における活動の中心そのものとなり、わざわざUXを個別に議論することはなくなります。例えばAmazon、Apple、IKEA、BMWなどが例として挙げられています。そしてこれがビジネスとしての差別化要因=大きな利益を稼ぎ出す原動力となるのです。

この状態に到達するのはなかなか大変です。だからこそ、差別化要因にもなるのでしょう。成熟を促進するには何をすべきか、引き続き考えていきます。